アメリカ西海岸、シアトルのお隣ベルビューにいます

2016/08/03

「海外生活=英語ペラペラ」神話

日本での夏休みは、全体としては素晴らしい体験だった。
ただ、これだけは、ちょっと...と思ったことが一つある。

「1年もいたら、英語ペラペラでしょ?」
「日本語忘れてない?」
等々の無邪気な質問に、ちょっとずつイライラが募ったのだった。

1年アメリカにいたら、英語がペラペラになって、日本語も忘れちゃうなんて、そんなことはありません。
それが、たとえ頭が柔らかいと言われている小学生であったとしても。

息子はあまりなかったのだけれど、「ちょっと英語しゃべってみて」みたいなリクエストもよくあるらしい。
これも...結局言葉は会話なので、何かしゃべりかけてくれないと、いきなり「何かしゃべって」というのは、やっぱりちょっと乱暴だなと思う。
軽くしゃべっているのを聞いてみたいのは、わからないでもないけれど。

そういえば、アメリカに来てすぐの頃にも、
「子供は早いから、半年もすればペラペラよ」
と何人かのアメリカ人にも言われたことがある。

子供は早いから
子供は早いから
子供は早いから

やっぱり、私としては「子供は早いから」なんて、そんな安易に言わないでほしいと思う。
それは、この一年、言葉がわからないことで悲しい思いをたくさんしてきた息子を見てきたから余計強く思うんだと思う。本人はまだ語彙力が足りなくて、自分の気持ちを日本語でもうまく表現できなくて、結局、私にも話せなくて小さい胸の内にいろいろ溜めたままの残念だったことがたくさんあったんじゃないかと思っている。
その分、逞しくはなったけれど、このまま本人のサバイバル能力にお任せでいいのかと悩んでもいる。
(教室でずっと張り付いてもいられないので、結局何もできないんだけど。)

だからこそ、「子供は自然にペラペラ」なんて言われると、ちょっとカチンときてしまう。

おそらく、こんなにイライラするのは、私自身が病んでいるせいなんだけど。

「海外生活をしていれば、自然と英語がペラペラになっちゃう」というツチノコ級の伝説は、早いところ消えてなくならないかなと、アメリカの西の端っこから細々と念じております。

***

そういえば、だいぶ前に、シアトル出身のバイリンガール、吉田ちかさんのインタビュー記事を読んでかなりがっかりしたことを思い出した。
小学校1年生の時に両親の仕事の都合でアメリカに行き、すぐに現地の小学校に入学したのですが、子供だったので特に苦労もなく1年後には英語を喋っていましたね。
「特に苦労もなく」「1年後には英語を喋って」

本当ですか…うちの子がやはりバカなのか…
ただ、その後に続くのがこちら。
今考えるとおもしろいのが、当時、英語を喋っているのに、口にしている言葉をよく分かっていなかったんです。会話は成り立つんだけど、一つ一つの言葉の意味はちゃんと理解できていない……。英語を覚え始めた頃はそういった不思議な体験をしました。
この体験、とても興味深い。
口が先に覚えて、脳は後からついてくる、みたいな感じなのだろうか。
本当はいろいろ苦労したのかもしれないけれど、本人の記憶が曖昧になっているのか、本当に語学センスが優れていたとかすごく社交的な性格だったとかで、英語獲得がかなり速かったとかはあるかもしれない。

日本でお世話になったママ友は、長期にわたる海外留学経験(のべ7年間)があって、そのおかげでかなりインターナショナルな交友関係をもっているのだけれど、彼女の話の中でひとつ面白いエピソードがあった。
インターナショナルスクールに通っているハーフちゃんが、1年後にはけっこう先生とペラペラ会話していて、まわりで聞いていた「英語が得意ではない」保護者の間で「あの子は先生と対等に会話していてすごいわ」みたいなことになっていたんだけれど、実際に先生との会話を聞いていると、その子の英語がめちゃくちゃだったと。
発音がやたらいいし、よくしゃべってまくしたてるから、ペラペラには聞こえるけれど、実際には自分の知っている単語を並べてなんとなく文章にしているだけで、先生からは「ここではその単語じゃなくて、この単語を使った方がいい」とか指摘されているだけだったのよね。
ちかさんも、会話に不自由なかったと記憶にはあっても、もしかしたら最初はめちゃくちゃで、でも、口だけは動いていたということだったのかもしれない。
もちろん、そういう「話したいことが山のようにある」という子の方が上達は早いので、彼女の記憶自体は間違っていないんだろうな。

5 件のコメント:

  1. わかりますわかります!
    そんなにすぐ上達しない!!確かにできるようになってからは
    「あら、いつの間にかそんなこと言えるようになって!」っていう
    驚きはありましたけど、そこまでに辿り着くまでの道のりで
    いじめられたり、惨めになって通っていたんですよ。簡単にバイリンガルだとか
    言うけど、そもそも二つの言語をキープさせるのはものすごい至難の業って
    ことをわかっていない人が多すぎます!笑  生きてるだけで
    なれるもんじゃないのよ、バイリンガルっていうのは!

    ちかさんはそもそも女の子でおしゃべりな子だったんでしょうね。
    うちみたいに男の子で4歳になっても自己表現に興味がなくて
    ロクに話もしない子は、本当に言語で苦労がありました。
    娘は意味が通じてようと通じていまいと、勝手にしゃべってますから、
    そこがかなり大きな違いだと思います。

    そのハーフの子のエピソードも面白いですね。
    私の生徒で、幼稚園までインターに行っていて、1年生から公立に
    移って、英語力キープの為に私の教えていた学校に来た子が
    いました。お母さんは「英語しかしゃべれないから学校でいじめに
    あっている」って仰っていましたが、実際レベルチェックをしてみると
    いいのは発音だけで、語彙力、読み書きのレベルがかなり低かった
    です。残念ながらその子が通っていたインターは、多分デイケア的な
    「遊んで、おやつ食べて、おしまいね!」という感じのところだったと
    思います。そして先程のcultureだったら文化というものをわかっていないと
    っていうのと同じですが、本人が感じたこと、言いたいことを的確に
    いえるほどの年齢にもなっておらず、結局どちらの言語も
    ものすごく中途半端になってしまっていました。だからその子はケンカに
    なると先に手が出てしまっていたんです。本人は英語をしゃべっている
    つもりになっていましたが、実際はわからない単語があると、ウーとか
    アーとか言ってごまかしていました。アカデミックな学校でないと
    いくらアメリカンスクールでもやっぱり英語は簡単には出来ないもの
    ですね。

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    1. みーさん、

      たびたびありがとうございます!
      すごくよくわかるエピソードですね。

      みーさんの教えていた学校というのは、日本でのエピソードでしょうか?
      こどもは親の方針に従うだけですから、なんというか、自分の子供の状況を正しく把握するというのも、大事ですね。発音がいいから「できる」と勘違いされてしまったんでしょうね。
      うまく気持ちを言えずに手が出てしまってトラブルを起こす、という話はよく聞きます。
      あとは、現地校では我慢しているけれど、補習校ではわがまま放題、乱暴しまくりみたいな問題児になってしまった子もいたり...胸が痛いですね。

      けっこう、その「セミリンガル」で悩まれているお母さんも何人か知り合いにいました。
      ただの過渡期ならいいけれど、このままどちらの言語も中途半端だと、勉強どころじゃなくなってしまいます。
      それから、言語的にはうまくバイリンガルになったお子さんでも、どちらの国にいても「居心地が悪い」という、自分のアイデンティティ(自分はいったいどこの国の人間なのか)がわからなくなってしまった、という話もありました。
      一口に「バイリンガル」と言いますが、現実は厳しいですよね。
      たいていは何とかうまく折り合いをつけていくのでしょうが、最終的には本人の性格や環境などが深くかかわってくるんだと思います。

      たまこ拝

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  2. そうです、日本での話でした。
    すみません、なんか端折って書いていましたね。
    私は英会話スクールの講師でした。
    その生徒はインターナショナル幼稚園の1、2年ほどでできるようになった
    英語をどうにか公立小学校にうつったあとも維持したいということで
    私のいた会社に来たんです。日本にいると、こちらで過ごすより
    「自然な英語を話す人」の数が全く違うわけですよね。そうすると、インターに
    いったからすぐ伸びるというのは難しい。昔と違って、インターにいるのは
    外国人ばかりでなく、両親が日本人で海外と何の関係もないご家庭の人も
    いっぱいいますからね。特にインターの幼稚園は日本人しかいないというところも
    多いでしょうから、たくさんの日本人の子供たちに対してネイティブの先生が数人では
    英語力の伸びには正直限界があると思います。家庭でもどれだけやるかで
    かなり差が出るし、でも日本にいながら日本の学校で国語を学ばないというのも
    それなりに弊害もあるかもしれないですしね。

    居心地が悪いというのはすごくよくわかりますね。日本で育った
    ハーフの友達なんかはやっぱりすごく苦労があったと聞きました。
    私みたいな純日本人でも、洋楽が好きだと浮いてたり、留学から
    かえってきたら全く馴染めないとかありました。

    ほんと、簡単に「バイリンガルいいわね~」「もう英語ペラペラでしょ~」は
    疲れちゃいますね(笑)

    本当にいつも長々とすみません!!!

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  3. うちも12月で3歳になる息子がいます。
    今は2人目出産の為、日本に里帰りしてますが出産後半年位にまたベルビューに戻る予定。
    しかし日本に来て息子はたくさん言葉を話すようになりました。
    ベルビューに戻ったらまた聞いた事もない言語に息子なりに戸惑うのでは…と不安に思います。
    日系の保育園に入れて日本語と英語を混ぜて慣らしていこう!と安易に言う旦那にもカチンときます(笑)
    だって私自身全く話せないし運転すらできない!この状態で保育園に通わせたいなんて無謀過ぎるー!子供だってたくさん話ししたいし表現したいのに簡単に頭が柔軟だからすぐ慣れる!って考えはやめて欲しいですね…
    と言うか私自身もベルビュー滞在がまだ半年だったのでまた戻って生活するのが不安ですねー。
    子供がいるから学校にも通えないし…

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    1. くうママさん、

      ごぶさたしています。
      ご出産ですか!おめでとうございます!(まだかな?)
      しばらくゆっくりなさってくださいね。
      小さいお子さん二人連れでの長時間フライトは大変だと思います。
      お気をつけて。

      最初の壁は、配偶者の無理解ですよね。よくわかります。
      日本にいる時、保活中に何度首を絞めようと思ったことか(笑)

      お子さんにとって、今は言葉を吸収する大事な時期。
      そんな時に、いきなり意味不明な言葉のシャワーを浴びせるのは、精神面でも心配ですよね。
      語彙も増えてきたところなのに、日本語が安定する前に別の言語を入れてしまうと、本人の性格にもよりますが、日本語での表現も忘れてしまう可能性があります。
      言葉が出ないストレスで、手が出るお子さんもたくさんいらっしゃいます。
      日・英両方が年齢相応のレベルに達していない、セミリンガルで悩まれているお母さんも何人か知っています。

      …というリスクを承知の上で、「大丈夫」と言っているなら、これ以上言うことはないですね(笑)
      ベルビューに戻ってきて、もし話し相手がほしければ、いつでもご連絡ください!

      たまこ拝

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