アメリカ西海岸、シアトルのお隣ベルビューにいます

2019/04/21

帰国子女のキラキラじゃない部分

駐在家庭のあれこれを考えているうちに、自分が渡米してきた当時のことを思い出してうつうつとした気分になってしまった。
前回 → 海外赴任する駐在員とその家族の心の問題

これは、あくまで私の場合だけれど、出産後のうつうつとしていた時と重なるものがある。二つの共通点は、「外界との遮断」である。そして、唯一の話し相手が「夫」しかいないという点も似ている。さらに言えば、その夫は理解者ではない。ただの壁打ちであるが、動いたり発言したりする分、壁よりも質が悪かったりする。部屋も汚すし。

海外赴任と子供たち

ただ、夫婦の場合は大人であるだけまだましである。
一番のとばっちりは、何と言っても子供であろうと思う。
小学校高学年くらいから、子供の意見も聞くようになってくるとは思うけれど、小さいうちは「渡米が決まった」「これから家族としてどうするか」という話題にも入れない。たいていは「アメリカ行くことになったから」と事実だけを伝えられる。意見は求められない。どんなに嫌がっても決定は覆らないのだ。

それにもかかわらず、彼らは毎日学校に通わされることになる。
日本語の維持のために補習校やその他の教育機関に通うとなると、日本で変わらず暮らしていた時よりも、心身ともにぐっと負担が増える。さらに言えば、現地校に慣れ、友達もでき、生活が楽しくなったころ、突如としてまたお告げが来るのだ。
「帰国することになった」と。

この時期は、日本から来る方も多いと同時に、日本へ帰る方も多い。
アメリカの生活が肌に合わなくて、帰国の日を指折り数えていたのであれば、もろ手を挙げて一緒に喜ぶのだけれど、そうではないケースもある。
予定が覆らないことがわかっていながら、日本へ帰りたくない、と目を腫らしながら訴えるお子さんたちを見るにつけ、彼らの気持ちを考えると、胸を突かれる思いである。
言語や教育など心配なことも多いけれど、やはりメンタル面が一番心配である。

帰国子女と呼ばれる子供たち

実際の帰国子女本人は、何をどう感じているのだろうか?
帰国子女本人のブログというのはあまりなくて、現状がよくわからない。
唯一これは!と見つけたのはこちら。
小5から中3までアメリカ帰国子女のブログ
この、かごめさんのブログは淡々とした筆致だけれど、かなり読ませます。読みだしたら止まらなくなる。話の持っていき方がとてもうまい。
かごめさんは現役海外子女ではなく、海外生活をしていた当時を思い出しながら少しずつ記事にしている。でも、自分の中である程度寝かせてから言葉にしているので、それがまた心にぐっと迫るものがある。
これらの記事↓なんて、やっぱり泣けてしまう。
アメリカの小学校で日本の災害について学んだこと
進路について高校は日本で通う!と決めた日

帰ってからのことに気が回らない

赴任前は、帰任後のことまで気が回らない。当たり前である。
とにかくやることが山のようにある上に、留学などでそこに住んだことがあるならまだしも、たいていの場合は初めての土地でしかも海外へ引っ越すわけだから、不安もある。
でも、駐在員ということであれば、いつかは帰国する日がやってくる。
ここに住んでから気づいたのだけれど、実は、海外に引っ越して生活基盤を落ち着かせることがゴールではない。赴任先で何とか生活を安定させ、さらに帰国後のことをゴールに見据えて準備する必要があるのではないだろうか。

実際、帰国が決まったご家族の話を聞いていると、一番の問題は、帰国後の子供たちの教育をどうするか、英語を保持するための努力をするかどうか、などなど子供にまつわる心配事が多く聞かれるからだ。

帰国後の学校生活

現地校で3年も過ごせば子供は英語ペラペラのバイリンガルだ、と希望を胸に渡米してくる方も多いと思う。そのためにわざわざ海外赴任する方もいると聞く。
実際に3年たってみると、もちろん大人より発音もいいし友達とも会話ができているし本だって読むし現地校の授業にも理解して臨んでいるように見えるし、やっぱり子供はすごいな、と思うけれど、でも、ネイティブレベルとは言えないことに気付く。
(英語の方が強くなったお子さんだとしても、同年齢のネイティブに比べると語彙が足りないと言われることが多い。)

翻って、日本語はどうかというと、補習校などに通っていれば何とか維持できるものの、母語形成期の子供が3年も日本語と離れていた場合、その間に得られたはずの語彙や学習がそっくり欠落する可能性もある。
学習の遅れは2年まではなんとか取り返せるが、3年遅れるともう手遅れだと言われている。

さらに、海外では習えない内容もある。
生活面では、集会、生徒会、必修のクラブ活動、給食、日直、掃除当番などの係活動
学習面では、都道府県、伝統工芸、特産物、理科実験、社会科見学、修学旅行
その他、習字、リコーダー、水泳、縄跳び、さまざまなイベントごとに行進の練習させられたり、背の順に並ばされたり、きっちり座らされたり…
等々。
これらにとまどう子供たちも少なくない。

それから、「え、アメリカではそんなことしないよ」「アメリカだったらこうするのに」と感じることも多く、それを口に出すと煙たがられる。
窮屈に感じることもあるかもしれない。

海外生活の影響

日本の子供は総じてなんでもきっちり練習させられる。
アメリカでサッカーを一生懸命やってきたにもかかわらず、帰国してからサッカーチームに入ろうとしてもレベルが高すぎて入れなかったとか、海外でできなかったスイミングを始めようとしても初級者コースは小さい子ばかりで恥ずかしくて辞めてしまったとか、その年齢でしか始められなかった数々のチャンスを、海外にいたばかりに逃してしまっていることもある。

海外に出た年齢と、過ごした期間、帰国した年齢によっても、影響はさまざまである。

低年齢のうちに海外生活をして、小学校低学年前に帰国できれば、たいていのことは一般的な日本人の子供たちと同じように始められるとは思うが、それだと逆に海外生活はほとんど記憶に残らない。英語もすぐに忘れてしまうだろう。たとえ保持していたとしても、本人が努力しない限り、小学生の英語のままである。

中~高学年で海外に出た場合、今度は現地校になじむまで時間がかかるのと、すでに学習面でも高度なことを要求されるため、授業についていくのに相当な苦労が予想される。でも、ここで踏ん張って英語を獲得できれば、将来に渡って保持することが可能となる。ただこれも本人が努力しないと、結局「子供の英語」のままとなる。

ただし、どの場合であっても、その年齢で受けていたはずの学習や語彙、日本での友達との関わり方や習い事、あとは日本人としてよく言われる「空気を読む」という能力などは、海外生活が長くなればなるほど、獲得しづらくなるだろうと思う。その子の人生に必要であるかどうかはともかく。
これがこじれると、アイデンティティ・クライシスを引き起こすことになる。
そうならなかったとしても、結局、帰国子女は帰国子女同士で会話している方が気が楽だというのは理解できる。「アメリカではこうだったよ」といったことも、気を使わなくて済む。

まとめ

ここまで、子供に海外生活は負担が大きいよ、という話を書いてしまったんだけど、それでもたいていのお子さんは、帰国後もすんなり日本文化に順応して、日本の学校に元気に通っておられる。本当にえらいな、頭が下がるな、と思う。多少サポートすることはできるとしても、結局、本人に委ねるしかない。

家族帯同した時のメリット・デメリットを考慮して、帰国後をゴールとして海外生活をすると、ここで何をすべきか、何を捨てるべきか、という取捨選択の助けになるのでは、と思った次第です。
いろいろと大変なことの多い海外生活だけれど、私は日本から出てアメリカで生活することになって、日本の良いところや悪いところが良く見えて、言い古された言い方だけれど、視野が広がった、と本当に思っている。

この、イチローの引退会見、在外邦人にとっては共感できる部分が多かったんじゃないだろうか。
アメリカに来て、メジャーリーグに来て、外国人になったこと、アメリカでは僕は外国人ですから。このことは、外国人になったことで人の心を慮ったり、人の痛みを想像したり、今までなかった自分が現れたんですよね。この体験というのは、本を読んだり、情報を取ることができたとしても、体験しないと自分の中からは生まれないので。

 孤独を感じて苦しんだこと、多々ありました。ありましたけど、その体験は未来の自分にとって大きな支えになるんだろうと今は思います。だから、つらいこと、しんどいことから逃げたいというのは当然のことなんですけど、でもエネルギーのある元気のある時にそれに立ち向かっていく。そのことはすごく人として重要なことではないかと感じています。
イチロー引退【会見全文・後編】「大谷翔平は世界一の選手に」「外国人になって人の痛み想像した」 (9/9) 〈dot.〉|AERA dot. (アエラドット) 
マイノリティになって初めてわかることってたくさんある。

環境を選べない子供のことを考えると、本当に良かったのか、気持ちは常に揺らぐ。
でも、こと「多様性」に関しては、小さいうちから肌で感じられるという経験は得難いと思う。自分がマイノリティであるということは、デメリットばかりではないと信じている。
そして、その経験を生かすも殺すも本人次第ではあるけれど、少なくともそれを生かす方向にサポートすることは私にもできるんじゃないだろうか。

***

おまけ。
この記事面白かったです。確かに、誰もなりたくて帰国子女なんてなっていないよね。
【羨ましいとか言うな】帰国子女ブチ切れ座談会【誰もなりたくて帰国子女なってません】 | UmeeT

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2 件のコメント:

  1. はじめまして、かごめです。素敵な文章で紹介していただきありがとうございます!
    海外に連れていかれる子供の現実について、非常に的を得た記事に感激しました。
    たまこさんの記事はご自身の意見がしっかりと書かれていて、
    共感や新しい発見があるので引き込まれます。
    これから過去記事も読ませていただきます。ぜひまたよろしくお願いします。

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    1. かごめさん、

      ひゃー!ご本人から!
      よく見つけられましたね。
      わざわざコメント残していただき、ありがとうございます!

      帰国子女というと、親の視点からのブログばかりが目立っていて、なかなか当事者のお話を聞く機会がなく、一時期ずーっと読みふけっていました(今も読んでいます)。
      私はかごめさんの書く文章がとても好きで、こんな風にブログ書きたかった!と何度も思いました。

      親にできることってあまりないのですが、自分も経験がないですし、だから、かごめさんのブログには子供にどんなサポートができるかのヒントがたくさんちりばめられていると思っています。

      今後も楽しみにしています!

      たまこ拝

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