アメリカ西海岸、シアトルのお隣ベルビューにいます

2016/03/09

日本とアメリカのはざま


日本は年度末である。
日本に合わせて運営されている日本語補習学校も年度末である。

先日、今年度の補習校文集が配布された。
幼稚園部から小学校6年生までの全生徒の作文(幼稚園部は絵)がすべて載っている、分厚い文集である。これだけのものを毎年まとめるのも大変だろうなと思う。

文集を読み進めていくうちに、どうも胸が苦しいというか切ないというか、そういう感情が沸き起こってきて、これは何だろう、と思ったら、子供たちが「アメリカと日本」の文化の狭間で懸命に生きていることが伝わってきたからじゃないだろうか、と思い至った。

夏休みに日本に帰って日本の小学校の体験入学をした話。
今年の途中でアメリカへ来ることになって、日本のお友だちと別れてきた話。
初めての海外暮らしで英語ができないからとても不安だったという話。
土曜日はがんばっているスポーツの練習日なので補習校との両立が難しかった話。

もちろん、現地校のお友だちとのプレイデートのことやらサマーキャンプのことやら旅行のことなど楽しい話もたくさんあったんだけれど、その子たちの文字や文章からも日本語力の差が垣間見える。
(中には「ちはやふる」などの影響で百人一首などの日本の伝統文化に傾倒している子もいた。文章もびっくりするくらいうまい。)

こういうことって、日本語ネイティブの日本人ばかりの学校ではあまり感じることができないだろうなと思うと、なんというか…本当にどの子もみんな素晴らしい!と感動してしまった。

海外で日本語を学習し続けることは、それほど簡単ではない。
よく「家で親とは日本語で会話するんだから大丈夫なんじゃない?」と言われることもあるけれど、子供を取り巻く環境を舐めてはいけない。子供は毎日現地校で5~6時間は英語を聞き続けるのだ。学校の外に出ても聞こえてくるのは英語ばかり。テレビをつけても、もちろん英語。
親がいくら日本語で話しかけ続けていても、絶対量が全然足りない。しかもそれは「大人の使う日本語」であって、同年代の生きた日本語ではない。

低学年であればあるほど日本語は未完成だから、英語が日本語を凌駕するのはごく自然なことだ。
それを何とか食い止めるために補習校があるわけだけれど、結局土曜日一日だけではそれを補うには弱すぎる。保護者や子供本人の努力も相当必要である。放っておくと、いつしか日本語で表現するのが難しくなる日がくる。

そんな折、ナイスなタイミングでサンドラ・ヘフェリンさんがこんなブログをアップしてくださった。
海外育ちのハーフが日本語を話すとき<ハーフの語学教育> | コラム一覧 | ハーフを考えよう

私は子供時代、海外生活をしたわけでもなんでもないけれど、これすごくわかる気がする。
とくにこの記事の下の方のコメント欄、いろんな方の体験談が載っていて、「うわーそうだよねー」と首がもげそうなくらいうなずいてしまった。

それからいつも私を励ましてくださっているりょうこさんのブログでもこんな記事が。
駐妻のママ友に言われて目が覚めた言葉 | ポートランドのスポーツ母ちゃん 

これね…泣いたですよ…
りょうこさんもお子さんも、そしてそのお友だちも、別に誰も悪くない。
でも、全員が満足する接点なんてない。
多言語の狭間にいる子供たちとその保護者がいろいろ迷いながら落としどころを探していく。
長期滞在になればなるほど、多かれ少なかれ、みんなぶち当たる壁なんだろう。

いつかうちの息子にも壁が現れるんだろうな…と心の片隅にモヤッと置いておく。

***

この文集の冒頭に、補習校校長が「もう一つの土曜日」というタイトルで寄稿されていた。
「私たちの子供の頃は、土曜日は半ドンで」みたいな話から始まって、「ここで暮らす子供たちにとって土曜日は補習校の日であり、特別な土曜日の過ごし方ですね」、といった内容だったんだけど、最後の一文にこれまた泣いてしまった。

「土曜日 これからも待ち望まれる日であることを祈ります。」

日本語で勉強できることがいつまでも楽しいものでありますように。

5 件のコメント:

  1. たまこさーん、
    記事をご紹介くださってありがとうございます!
    人生は無理しすぎないことだな〜って思いました。
    つっぱしると大切な、今しか無い大切なものを見失っちゃいますよね。抽象的な表現ですが。。

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  2. りょうこさん!

    いつもありがとうございます。
    無理しているときは自分が無理しているって気づかないこともあって、どんどんいろんなものを崩していっちゃうことがあると思うんです。
    りょうこさんのあの記事を読んで、こんなに明るく前向きなりょうこさんも、迷ったり決断したりしながらここまで来たんだなーと思って、じ~んとしてしまいました。

    本当にとても参考になります。
    いつもありがとうございます。

    たまこ拝

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  3. はじめまして、突然のコメント失礼します。
    実はシアトルへ引越す予定で、子供(4月から年長)を日本語補習校へ通わせたいと考えています。そこで質問なのですが、小学部の補習校でお子さん方はランドセルをお使いでしょうか?子供が昔からランドセルを楽しみにしていたので買ってあげたいと思うのですが、皆使ってなかったら恥ずかしいから嫌、と言っており…。
    調べてもよく分からず、突然の質問で大変申し訳ありませんが、もしお時間があれば教えていただければと思います。よろしくお願いいたします。

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  4. よよよさん、

    はじめまして。
    数あるブログのうち、こちらへのコメントありがとうございます。
    こういう実務的な質問、なんだか嬉しいです!

    ランドセル!使っている生徒さんはけっこうたくさんいらっしゃいます。
    ランドセルを買ってから赴任が決まったという方も多く、もったいないからと土曜日だけでも使っているようです。
    ランドセルだからと言って目立つことはありません。ぜひ使ってあげてください。

    学年が上がるにつれて、荷物が重くなったり、ランドセルに入らないサイズのものが出てきたりで、キャスター付きのバッグに替える生徒が増える傾向があります。
    こちらでは、子供用のキャスター付きバッグの種類があまりないので、もしかしたら、日本で購入された方がいいかもしれません。
    (もちろん、高学年でもランドセルとサブバッグで通っている生徒もいます。)

    他にも何かありましたら遠慮なく書き込んでくださいね。

    たまこ拝

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  5. たまこさん、突然の質問にも関わらず、早速のお返事ありがとうございます!
    娘は引っ越しを伝えた時に「ランドセルもういいから」と泣いていて、使えると知ったら喜んでくれると思います。お伺いしてよかったです。他のアドバイスも含め、本当にありがとうございました!
    勝手ながら他のエントリーも拝見しましたが、我が家も駐在ではなく夫の転職のため無期限、私も娘を0歳で預け好きな仕事を続けていましたが、仕方なく辞めることになりました。その点でも同じ境遇の方がいらっしゃるんだと、勝手に心強く思っております。これから不安がいっぱいですが、ブログ、参考にさせていただきます。
    本当にありがとうございました!

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